とある中小企業診断士のブログ

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映画の新トレンド・ODS。中でも「音楽ドキュメンタリー作品」が急増するワケ。

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ここのところ、映画館でODS(Other Digital Stuff/非映画コンテンツ)と呼ばれる作品を観る機会が増えてきました。

業界最大手である東宝も2012年4月から「ODS事業室」なるものを新設し本格的にこの領域に取り組んでいます。同社ODS事業収入の伸びから考えてみても、ODSがいかに隆盛かは想像に難くありません。

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(出典:東宝決算短信より筆者作成)

 

急増する音楽ドキュメンタリー作品

ODSは前述のとおり、「映画以外のコンテンツ作品」のことを指します。例えば、スポーツ・コンサート・演劇・オペラ・バレエなどの映像作品が挙げられますが、とくに2014年以降、音楽アーティストのドキュメンタリー作品が急増しています。

下図にある「録画系」の前年比をご覧ください。およそ2倍です。

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(出典:映画館の音楽ドキュメンタリー上映3年で約3倍 | ORICON STYLE 

参考:2015年に公開された主な音楽ドキュメンタリー作品
アーティスト作品名
2 Mr.Children Mr.Children REFLECTION
BiS 劇場版 BiSキャノンボール2014
THE ALFEE THE ALFEE 40th Anniversary Film THE LAST GENESIS ~40年の軌跡と奇跡~
SKE48 アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48
3 ももいろクローバーZ 幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦
4 ニューロティカ あっちゃん
5 hide hide 50th Anniversary FILM『JUNK STORY』
7 BRAHMAN ブラフマン
乃木坂46 悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46
8 SMTOWN SMTOWN THE STAGE-日本オリジナル版-
10 SCANDAL Documentary film「HELLO WORLD
Perfume WE ARE Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENT
12 電気グルーヴ DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球ピエール瀧

 

なぜ急増しているのか。3つの理由

作品を提供する側の観点から見ると大きく3つの理由が考えられます。

1.制作費が安い

ここで比較対象としてハリウッド映画を持ち出すのは流石に無いと思うので、一般的な邦画を基準にしたいと思います。これについては、劇団ひとりさんの貴重な証言がありました。

製作費を聞かれると「予算はぶっちゃけた話、2億円です」といい、「それはすごいと思ったんですけど、一番ポピュラーな予算らしいですね」と告白した。

(引用元:劇団ひとり、初監督作「青天の霹靂」の製作費事情を告白 : 映画ニュース - 映画.com

この2億円という数字をベンチマークとします。では、一方で音楽ドキュメンタリー作品の制作費は一体どれくらいなのでしょうか。クラウドファンディング資金調達をしていた作品が2つほどありますので、そちらの数字を参考にしたいと思います。

ニューロティカ結成30周年記念ドキュメンタリー映画 『あっちゃん』制作計画 - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

唯一無二のパンクバンド「SA」初の日比谷野音LIVEの映画化プロジェクト - CAMPFIRE(キャンプファイヤー)

これらのプロジェクトで設定されていた金額は次の通りです。いずれも同じような数字をあげていることから、この金額感はひとつの目安なのだと思います。

 初期ゴールストレッチゴール
あっちゃん 3,750,000円 7,500,000円
劇場版SA 3,000,000円 7,000,000円

但し、この金額は制作費の他、宣伝配給費やプラットフォーム利用料、リターン特典制作費なども含んだ額となりますので、純粋な制作費となると200万円程度ではないでしょうか。

なんと一般的な邦画の制作費に対し、100分の1の金額で済んでしまいました。 

2.売上予測を立てやすい

音楽ドキュメンタリー作品は、基本的にそのアーティストのファンが観に来ます。であるならば、CDのセールスやライブの動員数、ファンクラブ会員数などから売上予測を立てやすいのも強みの一つでしょう。

興行収入自体は、1億円で最大級のヒットといわれる(参考:ラルク、映画「Over The L'Arc-en-Ciel」興業収入1億突破&上映期間延長が決定 | Musicman-NET)ことから、邦画のヒット作と比べるとあまり高くはありません。しかし、熱狂的なファンからの関連グッズ売上も期待でき、安定した数字を出せるということから、企業にとっては非常に魅力的な商品であることは間違いありません。

3.アーティストにとっても美味しい

従来、ライブの舞台裏やインタビューといった音楽ドキュメンタリーは、あくまでCDやライブDVDについてくる“特典のひとつ”でしかありませんでした。しかし、今となっては、それ単体で収益をあげられる立派な商品なのです。

また、制作コストが安く済むということとある種矛盾しますが(*とはいっても売上が正確に予測できるのであれば怖くないリスクです)、最近では監督として有名クリエイターを起用するような、よりこだわった作品も出てきています。例えば、昨年末に公開された電気グルーヴさんの「DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球ピエール瀧〜」の監督は「モテキ」や「バクマン。」で有名な大根仁さんでした。

つまり、音楽ドキュメンタリー作品は、アーティストにとって新しい表現の場であって、収益も立つという美味しい商品であるといえます。 

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(出典:電気グルーヴ初のドキュメンタリー映画が公開決定 -『モテキ』の大根仁が監督 | ニュース - ファッションプレス

 

まとめ:音楽ドキュメンタリー作品は手堅い

結局のところ、売上の見込みがある程度立つ上に制作コストも安い音楽ドキュメンタリー作品は、ビジネスとして非常に手堅いのです。極端な話、アーティストのファンにさえリーチ出来ればいいわけですから、プロモーションも非常にやりやすいと思います。

また、前述したクラウドファンディング案件の成功から考えると、一般的な知名度がなくとも、熱狂的なファンを持つアーティストであればビジネスとして成功しうるという点も見逃せません。

音楽ドキュメンタリー作品は今後も増えていくのではないでしょうか。